コラム(本紙 「小窓」より)


■中小企業とビッグデータ

 私たちの日常はデータで溢れている。朝改札を通過すれば鉄道会社に乗車記録が残り、コンビニでおにぎりを購入すればレジを通じて本部に記録が残る。子供のスマホのGPS機能をオンにしておけば、親が子の居場所を知ることができ、車で走行すれば、道路上に設置されたNシステムというカメラで車種、顔写真が警察に記録される。家に帰ってインターネット通販で買い物をすれば、閲覧状況や購入商品が記録され、翌日、同じような商品のお薦めメールが入っている。

 このように行動は日々記録され、膨大なデータ=ビッグデータとなり、集計・解析され企業や行政のマーケティング活動に活用されている。資本のある企業はこれらの活用に莫大な投資を行う。結果的にマーケティングの現場では解析者が人材不足となっている。

 総務省が7月に発表した「平成27年度版情報通信白書」は488ページにも及ぶ報告書だ。この調査結果ではデータを活用して生産や業務の課題を「見える化」すること、データを活用して未来を「予測」することが重要と記してある。

 では中小における「見える化」とは何だろう。それはオーナーや熟練者の経験と勘などの財産を「数値」化し、後継者や従業員にわかりやすく視覚化することである。「予測」とはそれらの行動を何度も重ねて、来年はどうなるかを予知することだ。

 情報通信白書の中でこのような例が上がっている。

 宮崎県のとある農家ではごぼう、にんじん等の根菜類を生産している。この農家ではスマートフォンを通じて登録した作業者の作業内容と、農地に設置した固定カメラによる情報、収穫量の情報をクロスして、それらの因果関係を分析、今まで個人のものだった栽培における経験や勘を「見える化」し、過去に例のない安定的な生産、品質の向上を実現したという。また、記録したデータから農地ごとに収支状況を確認することができるようになり経営改善にも役立った。

 大切なことは業界や企業規模の問題ではない。まずは「小さなデータを記録して全員で共有すること」が構造改革の第一歩であろう。

20150812 米井一高(Ikko Yonei)
@日本橋

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