コラム(本紙 「小窓」より)

■選択のきっかけ、信頼の根拠

 家電量販店の安売り競争から抜け出した企業がインバウンド(訪日)客を対象にした店舗を展開し高収益を上げている。東京の銀座通りを歩けば一目瞭然。店舗は外国人で溢れかえっている。右手に炊飯器、左手に化粧品や宝飾品を抱えた顧客が観光バスに乗り込みホテルに帰る。

 低価格のアルコール飲料=第3のビール(新ジャンル)の売れ行きが鈍化している。一方で再びビールが再評価され始めている。特にクラフトビールという小規模なビール醸造所でビール職人が造っているビールだ。第3のビールに比較すると価格は2倍になるが、様々な街でクラフトビールを飲ませる店が顔を出し、コンビニの店頭にも大手メーカーの開発したクラフトビールが並び始めた。

 昭和の時代、誰もが夏になると煮出し麦茶を飲んだ。しかしいつの頃からか店頭は低価格の水出し麦茶で占拠された。煮出し麦茶は「手間がかかる」と敬遠され、多くの工場が廃業に追い込まれた。しかし現在、「やはり香りが違う」と、煮だし麦茶が再評価され、成城石井などの大手高級スーパーの店頭に並び始めた。

 リーマンショック以後の景気の低迷を背景に低価格戦争が続いたが、消費財においては再び価格以外の「価値」を持つ商品が受け入れられている。もちろん背景には訪日客の増加、高齢化などがあるが、共通しているのは「価格で戦わない」「価値」「ブランド」を武器に新しい顧客を開拓するということである。

 トップ企業は市場をコントロールできる。市場優位性を保ち価格をコントロールするのも一つの戦略だ。しかし2位以下の企業は価格戦略で対抗することはできない。エリアを絞り込む、業種をセグメントするなどの価格以外の戦略がチャレンジャーには必要だ。

 今後、オリンピック関連やインバウンド、介護、通信販売など伸びる市場がある。重要なのは、競合や関連会社の動向を見ること以上に、伸びている市場はどこかをいち早く察知し、そこで消費者、生活者の動きを感じ取るということだ。そして彼らにとって自社製品のブランド=「選択のきっかけ、信頼の根拠」は何なのかを明確にすることであろう。

20150821 米井一高(Ikko Yonei) @nihombashi


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