コラム(本紙 「小窓」より)

■シニアと包装

 龍角散は株式会社龍角散が製造販売する鎮咳去痰薬である。痰(たん)を切って、咳を抑えるための薬で、現在では散剤だけでなくトローチやのど飴など、シリーズ製品も販売されている。近頃は中国からの観光客が「のどがすっきりするから」という理由で爆買している風景もお馴染みである。

 現在、同社の「ラクラク服薬ゼリー」という嚥下(えんげ)補助ゼリーが大ヒット中だ。高齢者は薬を飲むときにのどに詰まらせやすい。そこで薬をゼリーで包んで服用させるという発想が生まれこの商品が誕生した。漢方薬用や小児用などを含めると10億円規模の商品に成長している。

 一方高齢者には嚥下だけでなく、誤飲などの問題もある。消費者庁は去る9月16日、65歳以上の高齢者が薬のパッケージを誤って飲むなどした事故の情報が2009年9月〜今年7月の約6年間で計165件寄せられたとして、報告を行った。認知症や判断力が下がった人が食べ物と思い込んで口に入れるケースも目立ち、うち25人が入院して治療を受けた。製品別では、薬の包装が69件と最も多かった。

 さらに容器や包装の開けやすさという観点からも高齢者には課題がある。2015年、日本認知科学会(JCSS)は、筑波大学、静岡大学などと協力してペットボトルの開け方と高齢者の関係を調査し大会において発表している。ペットボトルのキャップが固くて開けづらいと感じる高齢者が25%存在し、実際に開けることができない人が1%いたという結果が出ている。

 このような状況に対しては、スウェーデンをはじめとして様々な国でプロジェクトが展開されているようだ。目的は、全ての消費者、高齢者が自分の手で開封し、必要な分量を取り出し、再度閉めることができる容器や包装をマーケットに普及させることである。対象となる容器・包装は薬の容器などから、スーパーの食料品、日用雑貨品、電化製品など日常で使用する全てのものである。
 すでに目前の高齢化社会、私たちが考えねばならないことはまだまだありそうだ。


20150928 米井一高  (Ikko Yonei) @nihombashi


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