コラム(本紙 「小窓」より)

リサイクルと職人の技

数年ほど前から大手文具店や雑貨店に並ぶFREITAG(フライターグ)というバッグが人気だ。スイスのチューリッヒにある企業が製造しているバッグで世界の若者に支持されている。最大の特徴はその素材。傷んで使用できなくなった運搬用トラックの幌を使っている。生地は最初から汚れており、幌の色も多種多様、同じデザインのものはない。創業は1993年。2人の兄弟によって始められ、今では約45人の従業員を抱え、チューリッヒの工業地区に倉庫や工場、事務所を構えている。価格はどれも20000円以上と決して安くはないが、日本でも自転車に乗る若者などに人気だ。

日本にも同じように廃材を利用したバッグがある。モンドデザインという会社のSEAL(シール)というバッグだ。この製品は廃材になった大型トラック用の使用済みタイヤチューブを再利用している。表面に使用している廃タイヤチューブは、素材の粉砕などの特殊な加工はせず、素材そのままの状態を保ちながら使用しており、素材自体の特徴である弾力性、耐久性や防水性を活かしている。製造はすべて国内だ。

経済産業省は昨年、我が国の皮革産業に関する調査報告を発表した。報告書によると国内の皮革産業は過去15年の間に事業所数は約6割減、生産額は約5割減となるなど、産業として急速に縮小を続けているという。また過去10年の間、国内生産額の縮小幅と輸入額の拡大幅がほぼ同様で、皮革製品の市場規模自体には大きな変化はない。また皮革産業に属する業種は他の製造業と比較しても1事業所あたりの生産額、従業員数は最も少ないとある。つまり、市場規模に変化はないが、海外製品がメイドインジャパンの製品にとって代わり、国内の多くの企業、工場が廃業に追い込まれたということになる。

国内では様々な業界、企業がその経営を持続させるために新しい取り組みを始めている。中でもRecycle(リサイクル)という思想と日本の工場、職人の持つ精緻な技という組み合わせは、今後重要なキーファクターになるかも知れない。



20150928 米井一高  (Ikko Yonei) @nihombashi


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