コラム(本紙 「小窓」より)

■異物混入と相互信頼


 日本のトイレタリー企業の調査によれば、東日本大震災以降、生活者の環境意識は弱まっているという。環境に対する意識は収入等と連動することが多い。つまり実態としての国民生活は、ここ数年豊かになっていないということだろう。「地球環境の大切さも分かるが、今は自分の生活を守るほうが先」というのが生活者の本音のようだ。

 一方、食品の分野に目をやると、2014年はインスタント食品で異物混入事件があった。2015年もファストフードの異物混入、あるいは食品の内容物表示の偽装等、相変わらず企業の不祥事が相次いだ。しかもマンション傾斜問題や自動車メーカーのCO2データ改ざん等、食品以外の大手企業によるトラブルも続き、国民生活センターへの問い合わせ状況をみても「企業やメーカーに対する不信感」は高いままだ。

 食品メーカーのコールセンターのクレーム対応状況は厳しさを増している。かつてはクレームの連絡があれば「お詫び」「お詫びの品」で済んでいたものが、現在は「お詫び」「原因究明」「今後の対策」までのステップを報告書に記載し当人に伝えなければならないという。テレビをつければ大手企業のトップらが謝罪する場面が映り、ファッション誌では「謝罪の場にふさわしいファッション」など驚くような特集が組まれたりする。インターネットでは企業がクレームに対しどのような対応をし、どのような「お詫びの品」を提供したのかを掲示板に書き込んだりする輩も出現している。生活者は企業の謝罪風景に慣れ、また対応の高度化を望むようになってしまった。

 周知の通り、食品のメーカーでは様々な対応策を打っている。コールセンターにおいては15分ルール等、生活者から連絡があった後の社内連携時間の詳細ルールを決めたり、工場内の工程をすべて「見える化」するといテーマで、製造ラインや制服を可視化し、異物が混入していない様をPRしようとする試みもある。 

 2016年1月現在、今なお食品の表示偽装や異物混入、廃棄食品の横流し事件がテレビを賑わしている。企業と生活者の相互信頼はいつ再生されるのだろうか

米井一高@nihombashi 2016/0119



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